通信大手3社が宇宙ビジネスに本腰を入れる理由
国内の通信大手3社が、宇宙ビジネスへの参入を本格化させている。この動きは、通信技術の進化と宇宙開発の民間化が相まって加速していると考えられる。各社は、自社の強みを活かしつつ、新たな市場の開拓を目指している。
これまで宇宙開発は主に国家プロジェクトとして進められてきたが、近年は民間企業の参入が目立つようになってきた。特に通信分野においては、地球全体をカバーする通信網の構築や、宇宙空間における通信インフラの整備が重要な課題となっている。このような背景から、通信技術に強みを持つ大手通信会社が宇宙ビジネスに参入することは、極めて自然な流れであると言えるだろう。
NTTが打ち出す「NTT C89」ブランドの狙い
NTTは、宇宙分野における新ブランド「NTT C89」を立ち上げた。このブランド名には、89番目の新しい星座を作るという意味が込められている。NTTグループ各社の宇宙関連事業や研究開発の取り組みを「星」に見立て、それらをつなげることで新たな価値を創造しようという構想だ。
NTTの島田明社長は、静止衛星や観測低軌道衛星、HAPSなどの分野では自社の強みを活かした自前化を目指す一方、通信低軌道衛星については外部パートナーとの連携でサービス化を図る方針を示している。この戦略は、自社のコア技術を磨きつつ、スピード感を持ってサービスを展開するという点で合理的であると考えられる。
現在、NTTの宇宙関連事業の売上は数十億円レベルに留まっているが、2033年には1000億円規模に拡大させる目標を掲げている。この目標は野心的ではあるが、宇宙ビジネス市場の急速な成長を考えると、決して非現実的な数字ではないだろう。
KDDIが目指す宇宙通信の未来像
KDDIは2021年9月にSpaceXと業務提携を結び、衛星通信網「Starlink」を活用したサービスの展開をいち早く進めてきた。さらに、2023年5月30日には「MUGENLABO UNIVERSE」という共創プログラムを立ち上げ、スタートアップと大企業の連携を通じて宇宙通信を活用した地上の課題解決を目指している。
同社は2024年中にStarlinkとスマートフォンの直接通信の実現を目指しており、さらに2028年には月と地球間の通信、2030年には月面でのモバイル通信の構築を視野に入れている。これらの目標は非常に挑戦的であり、技術的にも多くの課題が存在すると考えられる。しかし、このような野心的なビジョンを掲げることで、技術開発が加速される可能性もあるだろう。
ソフトバンクが挑む光無線通信技術の可能性
ソフトバンクは、光無線通信技術を用いた新たな通信システムの開発に取り組んでいる。具体的には、地上約20キロメートルの成層圏に滞空するHAPS(成層圏通信プラットフォーム)と、高度約2000キロメートルを周回する低軌道衛星を光無線通信で接続する世界初の実証実験に着手している。
この技術が実現すれば、HAPSと低軌道衛星間で双方向10ギガビット毎秒という世界最速の通信が可能になるという。この高速通信技術は、将来的に地上の通信インフラを補完し、さらには災害時の通信手段としても活用できる可能性がある。
宇宙通信ビジネスがもたらす未来の展望
通信大手3社の宇宙ビジネスへの参入は、単に新たな収益源を求めるだけでなく、通信技術の可能性を大きく広げる取り組みでもある。宇宙空間における高速通信網の構築は、地球規模での情報格差の解消や、新たな産業の創出につながる可能性を秘めている。
一方で、宇宙開発には多額の投資と長期的な視点が必要となる。各社が掲げる目標を実現するためには、技術開発はもちろん、国際的な規制への対応や、宇宙ゴミ問題への取り組みなど、多くの課題を克服する必要があるだろう。
しかし、これら挑戦が成功すれば、私たちの生活や社会のあり方を大きく変える可能性がある。宇宙通信ビジネスの進展は、まさに人類の新たなフロンティアを切り開くものだと言えるのではないだろうか。