生成AI大革命の裏側、日本企業の挑戦と電力需要爆発のジレンマが明らかに

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    国内企業が次々と生成AI市場に参入

    国内企業による生成AI市場への参入が加速している。KDDIやソフトバンク、パナソニックなどの大手企業が相次いで新たな取り組みを発表し、生成AI技術の開発と実用化に向けた動きが活発化している。

    東京大学発のスタートアップ企業ELYZAは、日本語に特化した大規模言語モデル(LLM)「ELYZA LLM」を開発した。このモデルは、米メタの「Llama3」をベースにしており、日本語による執筆や情報抽出の性能に優れているという。ELYZAのCEO曽根岡侑也氏は、「ChatGPTやGemini、Claudeと並ぶ新たな選択肢としてELYZA LLMを広げていきたい」と意気込みを語っている。

    KDDIは情報通信研究機構(NICT)と共同で、LLMの研究開発に乗り出した。NICTが保有する600億以上のウェブデータを活用し、生成AIの精度向上や新たな応用技術の開発を目指している。特に注目すべきは、事実と異なる内容を生成する「ハルシネーション」の抑制技術や、マルチモーダルAIを活用した技術の研究開発だ。

    ソフトバンクとパナソニックの取り組み

    ソフトバンクは生成AI事業に特化した子会社「Gen-AX(ジェナックス)」を設立し、本格的な事業展開を開始した。Gen-AXは、生成AIを活用したコンタクトセンターの自動応対システムの提供や、企業向けのAI活用コンサルティングサービスを展開する予定だ。この動きは、生成AI技術の実用化と企業への導入を加速させる可能性がある。

    一方、パナソニックホールディングス(HD)は、グループ企業の業務に特化したLLM開発を進めている。スタートアップ企業のストックマークと協業し、約1000億パラメーターの独自LLMを構築する計画だ。この取り組みは、企業独自の知識やノウハウを生成AIに組み込むことで、より高度な業務支援を実現することを目指している。

    生成AI普及がもたらす電力需要の課題

    生成AI技術の急速な発展と普及に伴い、深刻な課題が浮上している。それは、爆発的に増加する電力需要だ。生成AIの学習や運用に必要な高性能サーバーの増加により、データセンターの電力消費量が急増している。

    三菱総合研究所の予測によると、2040年のデータトラフィック(情報量)は2020年と比較して最大348倍に達する可能性がある。さらに、今後登場が見込まれる数兆から数十兆パラメーターの超大規模基盤モデルを全面的に活用した場合、小規模モデルと比べて計算量が90倍にも膨れ上がると予測されている。

    電力効率化の重要性

    三菱総研政策・経済センターの西角直樹主席研究員は、「集積化による半導体チップの電力効率は限界を迎えつつある」と指摘している。この状況を打開するためには、先端パッケージングや光電融合などの新技術の実現が不可欠だと考えられる。

    電力制約下での生成AI利活用について、専門家は3つのシナリオを提示している。

    1. 超大規模基盤モデルを利用する「計算量爆発シナリオ」
    2. 多様なチップを組み合わせて用途に応じて使い分ける「適材適所シナリオ」
    3. 小規模基盤モデルを使う「省電力優先シナリオ」

    各シナリオには一長一短があり、今後の技術開発や政策決定によって、どのシナリオが現実のものとなるかが左右されると考えられる。

    生成AI時代における日本の課題と展望

    生成AI技術の急速な発展は、日本企業に新たな機会をもたらす一方で、電力需要の急増という難題も突きつけている。この状況下で、日本が国際競争力を維持・強化していくためには、いくつかの重要な課題に取り組む必要がある。

    西角氏は、「高速低遅延で安価なネットワークの普及によって海外や地方にデータセンターを分散できる」と指摘している。この考えに基づけば、生成AIの処理位置を最適化することで、電力需要の集中を緩和できる可能性がある。

    持続可能な生成AI活用に向けて

    電力制約によって生成AIの利活用が阻害されるような事態は避けるべきだと専門家は警鐘を鳴らしている。そのためには、ICTインフラの整備や電力供給の効率化など、複合的な対策が必要不可欠だ。

    日本企業が生成AI市場で競争力を維持し、その恩恵を最大限に享受するためには、技術開発と並行して、エネルギー問題への取り組みも重要となる。再生可能エネルギーの活用拡大や、AIを活用したエネルギー管理システムの導入など、多角的なアプローチが求められる。

    生成AI技術の発展と電力需要の増大というジレンマを克服することができれば、日本は生成AI時代における新たな産業革命の主導者となる可能性を秘めている。政府、企業、研究機関が一体となって、この課題に取り組むことが、日本の将来的な国際競争力を左右する重要な鍵となるだろう。

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