FD-SOI技術が欧州半導体産業に革新をもたらす、CEA-LetiがFAMESプロジェクトで新たな挑戦

    半導体

    欧州の半導体産業が大きな転換点を迎えようとしている。フランスの研究機関CEA-Letiが主導する「FAMES(FD-SOI Advanced Manufacturing for European Sovereignty)」プロジェクトが、欧州の半導体技術の自立と革新を目指し、本格的に始動した。総額8億3000万ユーロという巨額の投資を受け、最先端のFD-SOI(完全空乏型シリコンオンインシュレーター)技術を中心とした研究開発が行われる。このプロジェクトが欧州半導体産業にもたらす影響と、世界の半導体市場における欧州の立ち位置について、詳しく見ていく。

    目次

    欧州半導体産業の転換点となるFAMESプロジェクト

    FAMESプロジェクトは、欧州の半導体技術における自立性を高め、グローバル市場での競争力を強化することを目的としている。CEA-LetiのJean-Rene Lequepeys氏によると、このプロジェクトは単なる研究開発にとどまらず、欧州の半導体産業全体を活性化させる重要な役割を担っている。

    FAMESの特徴として、以下の5つの先端技術の組み合わせが挙げられる。

    1. 10nmと7nm世代の新世代FD-SOI技術
    2. 新しい組み込みメモリ技術
    3. 3Dインテグレーション技術
    4. RFコンポーネント技術
    5. 電力管理IC技術

    これらの技術を統合することで、より高性能かつ省電力なチップの開発が可能となる。特にFD-SOI技術は、CEA-Letiが発明した技術であり、ミックスドシグナル回路に適しているため、幅広い応用が期待されている。

    欧州CHIPS法との連携と研究開発への投資

    FAMESプロジェクトは、欧州CHIPS法の一環として推進されている。欧州CHIPS法では、半導体産業の促進のため、工場への直接投資や税制優遇措置などが盛り込まれている。さらに、「Chips for Europe」イニシアチブを通じて、研究開発にも33億ユーロの予算が割り当てられている。

    Lequepeys氏はこの点について、「欧州の政策立案者は、画期的な変化と長期的な見返りをもたらす研究開発に投資することを選択した」と評価している。この姿勢は、米国のCHIPS法が研究開発に110億ドルを投じていることと比較しても、欧州の研究開発に対する強い信頼を示している。

    欧州の研究機関の連携

    FAMESプロジェクトでは、CEA-Letiを中心に、ベルギーのimec、ドイツのFraunhofer、フィンランドのVTTなど、欧州の主要な研究機関が連携している。各機関が持つ専門知識を活かし、相互に補完し合うことで、効率的な研究開発が可能となっている。

    さらに、ルーベン・カトリック大学やグラナダ大学、ワルシャワ工科大学などの大学も参加しており、産学連携の体制が整えられている。

    産業界との協力体制

    FAMESプロジェクトは、研究開発だけでなく、産業界との密接な連携も重視している。すでに43社からの支持表明があり、その中にはSTMicroelectronics、Infineon Technologies、ASML、Soitecなどの欧州企業だけでなく、Qualcomm、Global Foundries、Intel、IBMなどの米国企業も含まれている。

    Lequepeys氏は、「将来のニーズを予測するためには、産業界からのインプットが絶対に必要だ」と述べており、産業界のアドバイザリーボードの設置を予定している。この産学連携の取り組みにより、研究成果の実用化と市場ニーズへの迅速な対応が期待できる。

    FD-SOI技術の可能性と今後の展望

    FAMESプロジェクトの中核を担うFD-SOI技術は、従来のFinFETやGAA(Gate-All-Around)技術と並ぶ重要な半導体技術の一つである。Lequepeys氏によると、FD-SOI技術は特にミックスドシグナル回路に適しており、同じノードの他の技術と比較して30〜40%の消費電力削減が可能である。

    この特性を活かし、FAMESプロジェクトでは、IoT、自動車、医療機器、宇宙・セキュリティなど、幅広い分野での応用を視野に入れている。さらに、環境への配慮が求められる現代において、FD-SOI技術の省電力性は大きな強みとなる。

    欧州半導体産業の未来

    FAMESプロジェクトは、欧州の半導体産業にとって重要な転換点となる可能性を秘めている。巨額の投資と産学連携の体制により、欧州独自の技術力を高め、グローバル市場での競争力を強化することが期待される。

    FD-SOI技術を中心とした研究開発の成果が実を結べば、欧州は半導体産業における独自のポジションを確立し、世界市場でのシェア拡大につながるだろう。また、環境への配慮や省エネルギー化が求められる現代社会において、FD-SOI技術の特性を活かした製品開発は、欧州企業に大きなアドバンテージをもたらす可能性がある。

    今後、FAMESプロジェクトの進展と、それに伴う欧州半導体産業の動向に注目が集まることは間違いない。世界の半導体市場における新たな勢力図が形成される可能性も十分に考えられ、業界関係者のみならず、幅広い分野の企業や研究者たちが、この動きを注視していくことになるだろう。

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