TSMCが2nmプロセス「N2」で新技術NanoFlex採用、2025年投入へ

    半導体
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    TSMCの日本市場における躍進と最新技術動向

    TSMCは2024年6月28日、神奈川県横浜市で「Japan Technology Symposium」を開催した。このイベントは顧客向けの限定的なものだが、同日に記者説明会も行われ、TSMCの最新技術動向が明らかになった。

    TSMCジャパン株式会社の代表取締役社長である小野寺誠氏は、日本市場におけるTSMCの成長について言及した。2023年の日本市場での売上高は41億ドルに達し、前年比で成長を続けている。特筆すべきは、TSMCのグローバル事業が7〜8%のマイナス成長となった2023年においても、日本市場ではプラス成長を記録したことだ。

    12インチ換算のウェハ生産数は2023年に約150万枚を達成し、1997年からの累計では1,000万枚を超えた。このデータからも、日本市場におけるTSMCの存在感が着実に高まっていることがうかがえる。

    熊本県のJASMファブと先端プロセス技術の展開

    TSMCは日本国内での事業展開を加速させている。横浜本社に加え、茨城県つくば市に3DIC研究センター、大阪と横浜にジャパン・デザインセンターを設置している。さらに、2024年2月には熊本県にJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)ファブを開設した。

    JASMファブは28nm〜12nmの成熟したプロセスノードを利用し、CMOS用ロジック半導体や自動車向けマイコンの製造を主な目的としている。小野寺氏によると、既に7nmなどのより先進的なプロセスノードを対象とした第2フェーズのプロジェクトも始動しているという。

    この動きは、TSMCが日本市場を重要視し、長期的な成長戦略を立てていることを示唆している。半導体産業の専門家としての見解では、JASMファブの稼働は日本の半導体産業再興の重要な一歩となる可能性が高い。

    日本の半導体エコシステムへの影響

    TSMCの日本進出は、単に生産能力の拡大だけでなく、日本の半導体エコシステム全体に波及効果をもたらすと考えられる。特に、自動車産業や産業機器分野での需要に応えることで、日本企業の競争力強化につながる可能性がある。

    次世代プロセス技術N2とA16の詳細

    TSMC シニア・バイス・プレジデント兼副共同最高業務執行責任者のケビン・ジャン氏は、TSMCの次世代プロセス技術について詳細な説明を行った。

    2025年に投入予定の2nm(N2)プロセスでは、NanoFlexと呼ばれる新技術が採用される。NanoFlexは、GAA(Gate All Around)構造のFETを最適化する技術で、ダイサイズ、性能、電力効率のバランスを柔軟に調整することが可能となる。

    さらに2026年末までには、A16と呼ばれる次世代プロセスの量産開始が予定されている。A16では、Super Power Rail(SPR)と呼ばれる裏面電源供給技術が導入される。この技術により、シリコンチップの前面では信号品質やクロック周波数の供給品質が向上し、背面では電力供給の効率が改善される。

    A16プロセスの性能向上

    A16プロセスは、N2のバリエーションであるN2Pと比較して、同じ電力供給で8〜10%の性能向上、または同じ性能で15〜20%の電力削減を実現する。さらに、ダイの密度は1.07〜1.1倍に向上する。

    これらの技術革新は、AIや高性能コンピューティング分野において大きな意味を持つ。特に、電力効率の向上は、データセンターの運用コスト削減やカーボンフットプリントの低減につながる重要な要素となるだろう。

    チップレット技術の進化とAI半導体への影響

    ジャン氏は、プロセスノードの微細化に加え、チップレット技術の重要性を強調した。現在、NVIDIAのH100/H200やAMDのInstinct MI300シリーズなど、最先端のAI向けGPUには例外なくTSMCの2Dまたは3Dチップレット技術が採用されている。

    TSMCは2025年以降、光通信エンジンを統合した3D OE技術の導入を計画している。この技術により、チップ間の通信速度が大幅に向上し、消費電力とレイテンシが劇的に削減される見込みだ。

    3D OE技術の将来性

    3D OE技術の進化により、2026年には6.4Tbpsの伝送速度を実現しつつ、消費電力を半分、レイテンシを10分の1に削減することが可能になる。さらに将来的には、12.8Tbpsの伝送速度を実現し、消費電力を10分の1、レイテンシを5%まで削減する技術の開発が進められている。

    この技術は、スーパーコンピューターやAIクラスターの性能向上に大きく寄与すると考えられる。複数のGPUを効率的に接続し、一つの巨大GPUとして機能させることで、AIの学習速度や推論性能が飛躍的に向上する可能性がある。

    自動車産業向けの半導体技術

    TSMCは自動車産業向けにも先端的なチップレット技術を提供している。「InFO-oS」と「CoWoS-R」と呼ばれるこれらの技術は、3nmなどの最先端プロセスノードを活用し、高性能かつ信頼性の高いチップの製造を可能にする。

    自動車の電動化・自動化が進む中、これらの技術は日本の自動車メーカーやTier 1サプライヤーにとって大きな意味を持つ。高性能な半導体を採用することで、自動運転技術の高度化や電気自動車の航続距離延長などが実現可能となるだろう。

    TSMCの技術革新がもたらす産業への影響

    TSMCの一連の技術革新は、半導体業界全体に大きな影響を与える。特に、AIや自動車産業など、高性能・高効率な半導体を必要とする分野において、TSMCの技術は key enablerとなる可能性が高い。

    日本市場におけるTSMCの存在感増大は、日本の半導体産業の復活につながる可能性もある。JASMファブを中心とした生産能力の拡大と、最先端技術の導入により、日本企業の競争力強化が期待できる。

    一方で、TSMCへの依存度が高まることによるリスクも考慮する必要がある。地政学的リスクや自然災害などによるサプライチェーンの混乱に備え、複数のファウンドリとの協力関係を維持することが重要だろう。

    TSMCの技術革新は、デジタルトランスフォーメーションやAI革命を加速させる原動力となる。今後も、プロセス技術とチップレット技術の両面での進化が期待され、この技術がもたらす社会的インパクトにも注目が集まるだろう。

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