トレイルランニングレースでココヘリ携行義務化の流れ
トレイルランニング界に大きな変化が起きている。山や海での行方不明者の位置を特定する捜索サービス「ココヘリ」を運営するAUTHENTIC JAPAN株式会社は、2024年10月13日、14日に開催される「第32回ハセツネCup」の必携装備品としてココヘリが指定されたことを発表した。
ココヘリは17万人が利用する山岳遭難捜索サービスだ。ユーザーは専用の電波を発信する発信機を携帯することで、山岳遭難時に発信機と受信機の「直接通信」を用いて位置を特定され、捜索時間を大幅に短縮できる仕組みとなっている。
今年度、ハセツネCupをはじめとする10以上のトレイルランニングレースでココヘリの携行が義務化された。トレイルランニングは登山よりもスピードが速いため、ランナーが気づかないうちにレースコースから外れてしまう可能性が高い。また、コースが長距離かつランナーへの負荷も高いため、急な病気や怪我で動けなくなり、山岳遭難につながる不測の事態も想定される。ココヘリの高い機能性は、そうした事態への備えとして高く評価されている。
ハセツネCupの概要と山岳遭難の現状
日本トレイルランニングの最高峰レース
ハセツネCupは、1993年に開始した奥多摩山域の71.5kmを走破するトレイルランニングレースだ。正式名称は「第32回日本山岳耐久レース(24時間以内)~長谷川恒男Cup」であり、日本トレイルランニングレースのパイオニアとして知られている。日本最高峰レースの一つとして数えられる本大会でココヘリ携行が義務化されたことは、トレイルランニング界全体に大きな影響を与えると考えられる。
深刻化する山岳遭難問題
日本の山岳遭難は増加傾向にある。警察庁「令和5年における山岳遭難の概況等」によると、2023年の山岳遭難者数は3568名、山岳遭難件数は3126件と、それぞれ統計を取り始めてから最多を記録した。警察庁は、入山前の登山届の提出とGPS機器の携行を呼びかけており、ココヘリの義務化はこうした呼びかけに沿った動きと言える。
ココヘリ携行義務化レースの拡大
ハセツネCup以外にも、多くのトレイルランニングレースがココヘリの携行を義務化している。奥武蔵ロングトレイルレース、DEEP JAPAN、The 4100D マウンテントレイル in 野沢温泉、TJAR、白馬国際クラシック、上州武尊スカイビュートレイル、Niseko Expedition、カムロトレイルラン、甲州アルプスオートルートチャレンジなど、日本各地の主要レースがこの動きに加わっている。
この傾向は、トレイルランニング界全体で安全対策の重要性が認識されていることを示している。各レース主催者は、参加者の安全を最優先に考え、最新の技術を活用した対策を講じようとしている。
ココヘリの仕組みと特徴
ココヘリは、会員に専用の電波を発信する発信機を貸与し、山岳遭難時に受信機を持った民間提携ヘリコプターをはじめ、ドローンや民間地上捜索隊を出動させるサービスだ。発信機と受信機の「直接通信」を用いて登山者の位置を特定することで、捜索時間を大幅に短縮できる。
山岳地帯ではスマートフォンの電波が届かないことが多いが、ココヘリは携帯電話の通信網に頼らない「直接通信」を使用するため、山岳地帯での迅速な捜索が可能となる。「命を守る」ことへの高い性能が登山家に強く支持され、会員数は17万人を超えるまでに成長している。
トレイルランニングの安全性向上への期待
ココヘリの携行義務化は、トレイルランニングの安全性を大きく向上させる可能性を秘めている。レース参加者全員がココヘリを携帯することで、万が一の事態に備えた体制が整うことになる。
また、この動きはトレイルランニング以外の山岳スポーツにも波及する可能性がある。登山やスカイランニングなど、他の山岳アクティビティでも同様の安全対策が求められる可能性が高い。
今後の課題と展望
ココヘリの携行義務化は画期的な取り組みだが、課題も存在する。例えば、レース参加者全員にココヘリを貸与するための費用や、機器の管理方法などが挙げられる。また、ココヘリの使用方法や緊急時の対応について、参加者への十分な教育も必要となるだろう。
一方で、この取り組みがさらに進化する可能性も考えられる。例えば、ココヘリの技術を活用したリアルタイムの選手位置追跡システムの開発や、AI技術との連携による自動異常検知システムの構築など、さらなる安全性向上につながる発展が期待される。
トレイルランニング界におけるココヘリ携行義務化の流れは、山岳スポーツの安全性向上に向けた重要な一歩と言える。今後、この取り組みがどのように発展し、山岳遭難の減少につながっていくのか、注目が集まっている。