中国で急速に進む人型ロボット開発
中国における人型ロボットの開発と実用化が急速に進んでいる。生成AI(人工知能)を搭載したこれらのロボットは、工場や商店、家庭など様々な場所で生産性の向上を目指している。中国政府は「ロボット強国」化を推進しており、将来の深刻な人手不足に備えてロボット技術の発展を後押ししている。
中国の生産年齢人口(15~64歳)は2015年の10億人をピークに減少傾向にあり、国連の推計によると2045年には8億700万人まで減少すると見込まれている。この人口動態の変化が、ロボット開発の加速化の背景にある。
「世界機器人大会」で披露された最新ロボット技術
2024年8月25日まで北京市で開催された「世界機器人大会」では、中国を中心に10か国以上の169社が約600のモデルを出展した。そのうち、人型ロボットは27種類に及んだ。この展示会は、中国のロボット技術の進歩を世界に示す重要な場となった。
注目を集める中国製人型ロボット「T1」
中国のベンチャー企業・四川天鏈機器人が開発した人型ロボット「T1」は、身長1メートル60、体重43キロと人間に近いサイズを持つ。外観は金属がむき出しでロボットらしい姿をしているが、80個近い関節を持つことが特徴だ。
T1は、プログラムに従って工場での作業や航空機の操縦など、多岐にわたる用途で利用可能だ。すでに量産化を実現しており、販売価格は1体20万~40万元(400万~800万円)となっている。
T1の開発者が語る未来の労働環境
T1の開発担当者は、「将来はロボットが危険な業務や単純作業を担い、人間は判断が求められる高度な仕事をするという役割分担が進む」と説明している。この見解は、人型ロボットが人間の労働を補完し、より効率的で安全な労働環境を創出する可能性を示唆している。
中国のロボット産業の急成長
中国のロボット関連企業数は約74万社に達し、この1年で3割増加した。特に工場の生産ラインでの活用が進んでおり、労働者1万人当たりのロボット数は470台と、10年前の20倍弱にまで急増している。
2022年には、世界の工場で新たに導入された産業用ロボット約55万台のうち、中国は半数超の約29万台を占めた。これは2位の日本の約5万台を大きく上回る数字であり、中国のロボット産業の規模と成長速度を如実に表している。
多様化する中国のロボット技術
中国のロボット技術は、産業用途にとどまらず、多様な分野に広がりを見せている。茶をいれたり、書道をしたりする特定技能に特化したタイプも実用化の段階に入っている。また、医師の代わりに手術をするロボットや盲導犬型ロボットなど、医療や福祉分野への応用も進んでいる。
人間そっくりのAI搭載ロボットの登場
大連市の企業・EX機器人が開発したロボットは、皮膚や髪の毛を忠実に再現し、ほぼ人間に近い外見を持つ。生成AIを搭載しており、マイクを通して質問すると合成音声でよどみなく答えることができる。このような高度な対話能力を持つロボットの登場は、人間とロボットの共存する未来社会の到来を予感させる。
中国政府のロボット産業支援策
中国工業情報化省は2023年10月、人型ロボットの量産化を2025年までに実現する構想を打ち出した。この政策は、中国のロボット産業のさらなる発展を促進し、国際競争力を高めることを目的としている。
国際競争が激化するロボット開発分野
米電気自動車(EV)大手テスラは2026年にも、主に工場での利用を想定した人型ロボット「オプティマス」の販売を目指している。中国と米国を中心に、ロボット開発における国際的な覇権争いが激しくなることが予想される。
この競争は、技術革新を加速させ、より高度で実用的なロボットの開発につながる可能性がある一方で、技術の独占や安全性の問題など、新たな課題も浮上させる可能性がある。
人型ロボット普及がもたらす社会変革
人型ロボットの普及は、労働市場や社会構造に大きな変革をもたらす可能性がある。人手不足の解消や生産性の向上といったメリットがある一方で、人間の雇用への影響や、ロボットと人間の共存に関する倫理的な問題など、様々な課題も浮上してくるだろう。
今後、技術開発と並行して、ロボットと人間が共存する社会のあり方について、幅広い議論と検討が必要となる。中国のロボット開発の急速な進展は、このような議論を加速させる契機となる可能性がある。